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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)244号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(昭和六二年特許出願公告第三五七九一号公報、以下「本願公報」という。)、甲第三号証(昭和六三年一二月二〇日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本願発明は、使い棄てのかみそり刃カートリツジに関するものである。

ひげをそる際、かみそりの皮膚に対する摩擦抵抗や、ひげを切断するために必要な毛髪の蛋白質構造の機械的強度、さらにはかみそりにひげと皮膚のカスがつまることからくる不快感があり、またひげそりによる切り傷、刺激、皮膚の荒れ、発疹、出血等が生ずることがあり、従来はひげそりの前後にローシヨンやシエービングエイドを皮膚につけることによつてこれら欠点の軽減が図られてきた。しかし、シエービングエイド等をひげそり前に用いた場合はひげそり中に蒸発やかみそりを繰返し往復させることによりその効果が減じられ、またひげそり後に用いた場合は事後のトリートメントに役立つにすぎないという問題があり、しかも数種のシエービングエイドを持ち運び別々の容器に入れて取り扱わなければいけないという不自由さがあつた(本願公報第二欄第八行ないし第三欄第一四行)。

本願発明は前記問題点を解決し、かみそりを動かす時に連続的にシエービングエイドを直接皮膚に施すとともに、シエービングエイドとかみそり刃を一つのカートリツジとして組合せ、使用後はカートリツジと一緒に使い棄てるようにしたかみそり刃カートリツジを提供することを目的とし(同第三欄第一五行ないし第二四行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(手続補正書第二頁第二行ないし第一〇行)。

本願発明は、前記構成を採用したことにより、かみそりを皮膚に当てるたびごとにシエービングエイドが直ちに、かつ繰返し皮膚に施され、従来のようにひげそり前後のトリートメントを必要とせず、ひげそり中の皮膚への荒れや不快感を予防するという作用効果を奏するものである(本願公報第六欄第二五行ないし第三五行)。

2 これに対し、第一引用例記載のものも、刃台と、かみそり刃と、キヤツプから成る使い棄てかみそり刃カートリツジであり、そのバツクプレート2、トツププレート1は、本願発明の刃台、キヤツプにそれぞれ相当することは当事者間に争いがないところ、原告は、第一引用例記載のもののアプリケーター4は、本願発明のシエービングエイドの構成と同様、ひげそり中に皮膚に接触する位置のトツププレート1の表面に固着され、かみそり刃の刃縁に並置されているとした審決の認定は誤りである、と主張する。

そこで検討するに、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例には、「本発明の目的は、ひげそり前に用いる用具を提供することを目的とし、このひげそり用具は、かみそりブラシとかみそりとを一体化したものである(第一頁第三五行ないし第三八行)。」「本発明によれば、両刃のかみそり刃ホルダー、前記かみそり刃ホルダーの片側に固定されるか又は取り付けられるハンドル、及び前記かみそり刃ホルダーの他の側に固定されて正しい位置にある時、かみそり刃より完全に上にあるように位置するアプリケーターとを含む安全かみそりが提供され、前記アプリケーターは前記他の側との表面積の三〇ないし八〇%の面積を覆い(第一頁第三九行ないし第四八行)」「アプリケーターがかみそり刃ホルダーの上側で刃縁の周辺まで伸びず、したがつてかみそり刃ホルダーの屋根上にたまる石鹸泡やそられた毛を収容する余地が残されるのがよい。アプリケーターは通常かみそり刃ホルダーの屋根と同じ輪郭を持つている(第一頁第五三行ないし第六〇行)。」「アプリケーターは、(中略)かみそり刃ホルダーの屋根に固定される(第一頁第七五行、第七六行)。」「毛軟化剤用アプリケーターは、かみそりの他に用途がない部分(安全かみそり製造業者がその商標をかみそり刃ホルダーの屋根に刻印することは知られているが)に配置される(第三頁第四九行ないし第五四行)。」「使用時には、かみそりを逆さにして、アプリケーター4を、たとえば前に詳述した成分を有するシエービンステイツク(図示せず)の湿らされた頂面にこすりつける。あるいはアプリケーター4に、製造時にシエービングクリームを含浸させることもできる。次にそのアプリケーターをひげそり面にこすりつけ、適当なひげそり泡を形成させる。別の方法では、シエービングクリームをひげそり面に塗り、アプリケーターは単に湿らせただけでひげそり面にこすりつけ、所望のひげそり泡を形成する。かみそりは、ひげそり面に当てる時、かみそり刃5の刃縁6がセレーシヨン7で起こされたひげに当たるような角度に保持される(第三頁第七八行ないし第九三行)。」と記載されていることが認められる。

右記載からすると、第一引用例記載のものは、かみそり刃とひげそり面にシエービングクリーム等を塗り付けるためのブラシ(第一引用例記載のものにおけるアプリケーター)を単に一体化した、ひげそり前に用いる用具の提供を目的としたものにすきず、アプリケーター4はトツププレート1の屋根上に固定され、トツププレート1と同じ輪郭を持つた形状ではあるが、その大きさはトツププレート1の表面積の三〇ないし八〇%であり、トツププレート1の屋根上にたまる石鹸泡やそられた毛を収容する余地を残しておくために刃縁の周辺までは伸びていないものであることが認められる。

してみると、第一引用例記載のものは、本願発明のようなひげそり動作中の不快感を除去するという技術的課題を有するものではなく、アプリケーターの右構成からして、かみそり刃5の刃縁6がセレーシヨン7で起こされたひげに当たるような角度で保持され使用される際、アプリケーターが常に皮膚に接触されるようになるものとは認められない。

したがつて、第一引用例記載のものも、キヤツプのひげそり中に皮膚に接触する表面にシエービングエイドが固着され、シエービングエイドはかみそり刃の刃縁に並置されている点で本願発明の構成と一致するとした審決の認定は誤りである。

被告は、第一引用例のFig 1に示された第一引用例記載のものの形状からすると、第一引用例記載のものも右構成については本願発明と一致する、と主張している。前掲甲第四号証によれば、第一引用例のFig 1に示されたかみそり刃カートリツジの形状は、刃縁6を備えたかみそり刃5がトツププレート1とバツクプレート2の間に存在し、トツププレート1は、その中央部から刃縁6に向かつて下方に、かつ弧状に傾斜し、その上には刃縁6に並置されたアプリケーター4が固定されていると認められるが、右アプリケーター4がトツププレート1の端縁近傍まで達しているか図面上必ずしも明確ではなく、しかも第一引用例には、トツププレート1がその中央部から刃縁6に向かつて下方に弧状に傾斜し、その上には刃縁6に並置され、かつトツププレート1の端縁近傍まで達するアプリケーター4があり、ひげそり中右アプリケーター4は皮膚に接触される旨の記載を認めることはできず、かえつて前記認定の技術事項が記載されており、当業者は、第一引用例記載のものを前記認定したとおりの技術内容のものと理解するというべきである。

したがつて、被告の右主張は採用し得ない。

3 以上のとおりであつて、審決は、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点の認定を誤つたものであり、これが審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ガード棒部分を含む刃台と、かみそり刃と、キヤツプとから成る使い棄てかみそり刃カートリツジにおいて、前記キヤツプの少なくともひげそり中に通常皮膚に接触する表面にポリエチレンオキシドから成る固形の水溶性シエービングエイドが固着され、前記シエービングエイドが帯片の形態のものであつて、該帯片が前記かみそり刃の刃縁に並置されていることを特徴とするかみそり刃カートリツジ(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

<省略>

別紙図面二

<省略>

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